journal in japan

記憶の中の詩

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2006-07-28 [ Fri ]
 -O.H. の短編によせて-

いくら杯を重ねたところで
いくら言葉を紡いだところで
呷った火酒が小川と流れはじめたところで
流れは源へ遡ってゆくことはできない
どれほどひたむきに言挙げをしたところで
アルプス山中の一滴は
大地のかたむきのままに せせらぎ旅だってしまったの

ただ
その唇に 瞳に 指先に
こめられた想いが紛いようのない真実ならば
この先の流れを いかほどかは撓めることはできる
水にもともとかたちはないもの
水底をかたちづくっていくのは
いくつものいくつもの 小さなひとしずく ひとしずく
そして真実が流れるならば
舟はたゆたいながら 波に運ばれてゆく

ただ
楫だけは放さないで


Lure-Ley, Lure-Ley,
als waeren wir zu dreien!
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2006-07-25 [ Tue ]

いつのことだったか覚えていないが、ある時妹と2人で祖父の家へ行ったら
途中の線路端(土手の上)に車椅子の祖父がいた。
私たちはみょうにはしゃいで、「おじいちゃま一緒に帰りましょ」と
両側から車椅子を押した。
ワーシャはいつになく慌てたようすで上半身を後ろにねじり、
「いい!いい!」と叫んでいたが、私たちはわぁーいと笑って押しつづけた。
小さな和室の居間を睥睨するベットの上という定位置に戻ったワーシャは
陽ざしの名残を頬に残したまま、私ほど厳しくしつけなかった妹もいるので
いつもより温和で優しかったが、

どてらにくるまって気持ちよさそうに冬の午後の陽を浴びていた
祖父の姿を思い出すと、ほんとうはあの時祖父は
もっと陽なたぼっこをしていたかったのだろうな、
なぜ連れて帰ってしまったのだろうなと思って、
それもあって夏の弔いの庭を奔走しながら
私は涙が溢れて止まらなかった。
80歳の誕生日の前夜、病室に忍びこんで「明日来られないから」と
こっそり讃美歌を歌い、
それをモニタで見ていた看護婦さんたちが
誕生日には孫娘に代わって讃美歌を歌ってくれた、
その翌日の午後、ワーシャは天国で誕生日を迎えた---
さすがはよくできた孫娘だと私はみんなに誉められたけれど、
冬の日の小さな不孝が心に刺さっていて、それは違うような気がしていた。

月曜日がワーシャの天国での誕生日で、
朝熱いシャワーを浴びていたら、突然どてらで車椅子に乗った光景を思い出した。
右半身の自由を失った身には、そこまで一人で来るのは大仕事だったろうに。
シャワーを頭からかぶって、しばらく泣いた。
こんな日に母から電話がかかるのは(毎年のことだから)用件はわかっていたが、
この想いは独りで抱えていたくて、いちんちコールを無視しつづけた。

ワーシャは私が小学校高学年のときに言葉を失った。
だからいちばん多感な年頃に言葉で導いてもらうことはできなかったのだけれど、
私の何気ない言動に
それはワーシャがいつも言っていたことだとか、
見ているとなんだかマルファ(早世した祖母)そっくりだとか
評されることは、むしろ大人になってから増えた。
マルファとワーシャが逝った7月にはそれで
思春期にワーシャのお説教をくらっていたら
幼い日々マルファと一緒に過ごした時間があったら
私の人生はどんなふうに違っていたのだろうと、毎年考える。
2006-07-19 [ Wed ]

流れ 流れて
でもオフェーリアではないから
髪がほつれすぎないように気をつけましょう
2006-07-17 [ Mon ]
その年の今ごろは冷たい雨が続き、
私は長袖を持ってくるようにと電話で言った。
気がついたら長袖ばかり着ているので笑ったら
あなたの言うとおりにしたのだと反論されて、また笑った。
あまり強く睨んだので眼に焼きついたその夏最後の姿では
マドラス・チェックの半袖を着ているのだけれど。

その年はたくさんうみを見た。
ヨットをたくさん浮かべたうみ、
黒々と針葉樹に囲まれたうみ・・・
だからなのか、酔った勢いでガイコクゴで呟いた言葉は
まさしくそのモティーフを美しい韻律で織りあげたもの。
あまり胸を衝かれたのでその言葉は今も
私の奥底にしっかりと刻まれている。

sei la nave --- sono il mare.

2006年 海の日に
2006-07-17 [ Mon ]

示された狭い階段を足探りすると
水の中へ降りてゆく感覚があった。
たどり着いた空間は、まさしく水の底。
苔と水の匂いが浸みこんでくる。
冷え冷えした真空に
しばし揺れ 揺られ 揺らして 揺らぐ。
地上の驟雨はいつしか晴れていたが
歩みだすと髪も、服も
ぬるい湿気を含んでたちまち重くなった。
2006-07-15 [ Sat ]
赤いワンピースに赤いサンダル、
赤いバッグで出かける。
水色の「あお」に乗って。
すっかり黒ずんだ空気を切って。
風をきればきるほど
頬もうなじも、肩さえも濡れていく。
夏の夜。
洗いたてを編みあげた黒髪も
襟足のあたりがしとってくるのが
肩甲骨の神経をつうじて伝わってくる。
かえり着いて、じっと風にあたる。
ほどいた髪は頬に首筋にまつわりつきながら
しだいに素直に背中を流れる。
洗っただけの長い髪は
休みの前日だけのぜいたく。
赤い酒をすすりながら
足の爪を赤く染める。
2006-07-14 [ Fri ]
ハンカチを買ったのは
傷をしばるためではなく
涙をおさえるためではなく
汗をぬぐうためではなく・・・
カラーの柄のハンカチを買ったのは
とある老詩人を思い出したから
酒を愛し、蝶を愛し、若い人たちを愛し
聖金曜日の朝に
明治の文豪と昭和の文士の隣に
桂冠詩人の座を得た老師が
兄弟子に私が贈ったカラーを
お前がもつと葱だと、
結婚祝いなのにこてんぱんに
笑いながらくさした春の日を思い出したから
2006-07-11 [ Tue ]
ほんのひと言でも独り言を口走ると
祖父は孫娘を厳しく叱った。
正座しておじぎがきちんとできないと
敷居ぎわの畳から奥へ入ることを許されなかった。
箸の持ち方が少しでもよくないと
食べているまっさい中でも持ち直させられた。

暑い日、雨の日のヒバの香りが
小さな子供はひどく苦手だった。
枝折り戸を開けると、柿の樹の根もとに
ぎっしりと金魚鉢。
魚と水草の湿った匂い。
酸素ポンプのモータと水泡の音。

台所に呼ばれると、床にバケツが並んでいる。
小さな手が張り切って運ぼうとするのを制して、
大きな手が水に錠剤を放りこむ。
「それは何?」
「はいぽだよ。これを入れないと
金魚は中で生きていけないんだ」
地下水を汲みあげたままのその水は
都心に近いと思えないほど、公団育ちの子供には
澄んで甘かったのだけれど。

その家も金魚も、柿の樹もワーシャも今はない。
ただアンティークのような形をした鍵だけが
1本の鍵だけが
昔面白がっていくつもいくつも作ってくれた迷子札のように
彼方には還る処のあることを教えてくれる。
マルファとワシリィの手の中に。
いちばん愛された孫は自分だと
それだけはつゆ疑ったことはない。
2006-07-10 [ Mon ]
-聖イオアンと聖マリアのあいだ-

翔りゆかな梔子匂う薄紗まといて

* * *
  珠の緒
バッグの奥からネックレスがでてきた
指先でころころと揺れるベビー・パール
絡まないように、縺れないようにそっとまた戻す
私の頸には細いチェーン
夏の宵のけだるい風には
それだけでじゅうぶんな重さだ
 ---ロザリオのチェーンを絡ませた m. の言葉をうけて

* * *
あちこち開け放たれた窓から
梔子の香りが流れこんでくる
急カーヴでちょっと揺れても
香りに誘われて前についと伸ばした背も踝も
しなやかに撓んでぐらつきもしない
そのまま風を孕んで
夜気を漂いのぼってゆきたくなる
十四夜の月を目ざして
2006-07-08 [ Sat ]

十二夜の月が
白い夜空に
浮かんだり 隠れたり
まるでゆきつ戻りつするように
南天へとにじってゆく
夕方ほんのりとひらついただけの雨が残していった
波の音がひたひたと ものみなを浸してゆく
2006-07-08 [ Sat ]
玄関のドアを開けたらもわんと湿った熱気が押し返してきた。
赤いイタリア革のドライヴィング・シューズをはくつもりだったのだけど、
ペディキュアもしてあるので、赤い革のサンダルに変更 <どこ製?
遅ればせながら、今年のサンダル・デビュー。

友人に編みものを教えてほしいと頼まれていて、
仕事帰りの彼女と近くのターミナル駅で落ちあう。
大型手芸材料店で彼女が糸を選ぶ間、
私も久しぶりにレース編みがしたくなるが、なんとか今日は我慢。
(こないだの冬1シーズンずっと編みものしていたのも、
母につきあって手芸材料店へ何度か行ったのが呼び水だった・・・)
私が彼女に似合うと思っている草色の、ラメ入りの綿糸をセレクト。
遅いお昼を一緒にとり、まずは作り目から。
私と同じ発想で、好きなところで始めて好きなところで終われる
シンプルなストールを、第一作に選んだ彼女だが、
作り目の段階でかなり手こずっている <編みものは正真正銘初心者
その手元を見ながら、彼女の希望の寸法にゲージを計算しなおす。
シュタイナー育ちで優しい絵を描く彼女に手ほどきをしてもらおうと
スケッチ・ブックと簡単な画材を持ってきたのだけれど、
とてもそれどころでないようで。
さらに手元をちらちらチェックし、手が上がってきたのや
目が揃ってきたのを褒めながら、眼の前のコップをスケッチする。
40cm分、105目の作り目が終わったところで、
時間と彼女の集中力が切れる。
基礎編みの入門書を買ったので、とりあえずそれで編み始める
ことにして、わからなかったらまた会うという約束にする。

改札口で別れてから、思い直してチャイナ・マーケットへ行ってみる。
中華の調味料がほしかったのだが、アジア食材と中国製の安いお香の
まじった匂いに K.O. されそうになり、
フリーザにひと塊だけ残っていたマトンのブロックを買う。
隣の棚に並んでいた豚の足や豚の耳や豚の尻尾は
     <豚の喉仏はなかった
また機会があったらね。
これで他にエスニック・スパイスが手に入ったら何か挑戦するか、
でなければうちのフリーザに残った最後の自家製ルゥを使って
なんのひねりもなくマトン・カレー。
ヨーグルトもジャムもだぶついているので、カレーがいちばんいいかも
知れない。
2006-07-07 [ Fri ]
zieh mich tief zu dir ins wasser
hauch mir leben ins gesicht
keine lust nur luft zu atmen
und ohne dich da geht es nicht
wolln den boden nicht mehr spuern
nur ein schritt nach vorn zum leben
egal wie es passeirt
perlentaucher - nimm mich mit auf deine reise
perlentaucher - ganz egal wie tief
und wenn wir keine luft mehr kriegen
wenn die wellen uns besiegen
weiss ich doch
wir haben die perlen uns verdient
jeder kuss schmeckt nach verlangen
und kein wort muss ich erklaeren
nur mit dir kann ich erleben
mich am dasein ganz verzehrn
hoer nicht auf mit mir zu tauchen
lass nicht los, nicht heute nacht
nur ein schritt nach vorn zum leben
egal wie es passeirt
2006-07-04 [ Tue ]

声にならない声がした。
私の位置からは白い篠雨しか見えない。
雨なら、屋外退避の必要はない。
進行を続けようとする私の声を、しかし
窓の外の音がかき消した。
雷らしい。
かすかに光ったらしい。

雨はあっけなくやんだ。
数時間して外に出ると、
ヒバの香りが鋭角の涼気を運んできた。
来がけに心惹かれた杉のぼっくりも、
1日ですっかり湿りけを含んでしまったろう。

都心へ戻ると、ネオンサインの地対空攻撃をうけても
夜空は久しぶりにうっすら蒼みをとり戻していた。

梅雨はもうすぐ明けるのだろうか。
夏が恋しいと思った。

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2006-07

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