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記憶の中の詩

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2006-05-13 [ Sat ]
ラリョーサが我が家の玄関前に立ったとき、やおらカメラをとり出して、
向こうの丘の上の空に五線譜を描く高架鉄塔に何枚もシャッタを切った。
ヨーロッパの映像作家は尾道のなんでもない道路を撮るのに、
左隅の電柱や電線と右上から斜め下におりてくる路地の「止まれ」の逆さ文字で
みごとなV字を描いてみせた。

私なら極力はずそうとする電線を、彼〈女〉らは無邪気かつ巧みに
構図の中にとりこんでしまうのだ。

素人写真を撮りながら、あるいは(特に日本で)撮れないのは、
私は文字を意識しすぎるのではないかと、
W夫妻の写真展を見ながらふと思った。

私にとって意識的に文字を入れた・・・あるいはそこに書かれた文字のために
写真を撮るのは、仕事の一部でもある。
また日本語を読めない友人たちのために、象形文字風にデザインされた
文字や看板を、茶喫み話のたねに撮ることもある。
しかしそうでなければ、意味を持って迫ってくる文字や言葉を
私は視覚的な記憶媒体である写真の四角い枠から、必死に排除しようとしてしまう。

けれど電線も漢字もない国から来た人たちにとっては、
それらは純粋に視覚的な記号、または図柄でしかない。
言語のとらえ方そのものが違うせいもあるのだろう、
文字を見ると音や書くときのペンの勢い、意味までも想起してしまう
東アジア人のように、連想の嵐に耳をふたがれたりしないから、
むしろ楽しんで積極的に、ファインダの中にとりこんでいく。

そんなことを考えたのは、スロープの底のギャラリーへ赴く前日までに
観ていた、あるいは思い出した映画たちの共通項のせいでもある。
家族とは思えないほどてんでばらばらに個性的な話し方をする俳優たち、
言葉を拾う気があるのかないのか、ハンディ・カメラの微妙な揺れを
そのまま伝える映像のように、音量も音響も一定しない科白、
詩の朗読や詩人の呟きが、分断されたモノクロの街を流れていく場面---
私淑した巨匠の作品の舞台を訪ねた作家が、急坂を登る息を弾ませながら
ぽろぽろと零していく言葉は、彼を「カントク」の国で一躍有名にした
代表作のナレーションにそっくりだった。
(その代表作もこの短編映画も、すべては「カントク」へのオマージュなのだ)

もちろん語られる科白の内容に、重要な意味がないわけではない。
しかしそこでは言葉たちはむしろ音でありメロディやリズムであり、
だから義理の親娘の尾道弁と東京弁が響きあうさまも、
奈良町の路地路地の言葉がラストでは山と盆地を見晴るかしてふり注ぐ
科白のない歌に昇華していく過程も、
孤独な人々のモノローグを明るく突き破ってダイアローグへ、
そして空と地上の天使のかけあいへと言葉を動かしていく
イタリア系アメリカ人俳優の陽気に訛った米語も、
それだけで本質的な役割を満たしているといえる。

これら3つの作品がそれぞれ
「大陸のもういっぽうの端」で崇拝者と私淑する後進を見出し、
あるいは人気を博し、あるいは賞を得たのも、
もしかしたら言葉を扱うこの手際にひとつの秘訣があったのではないかと、
素人の印象で空想をめぐらしてみた。

理解できない言葉が好きだ。
読めない文字が好きだ。
それでもなおさし出される意味を自分の中にとりこみたかったら、
とにかく五感をそばだたせて、いわば一糸まとわず
波に身を浸していくしかない。

旧東独の鉱夫がディープ・サウスへ出かけ、
アコーディオン演奏とダンスと、
ドイツ語と英語で響きのよく似た単語と、
そしてあろうことか学校時代に強制されたロシア語で
(これはチェコ出身のバンド・メンバーと)
旅の情けに運ばれていくロード・ムーヴィーは、
観衆から温かい笑いを立ちのぼらせた。
そう、私の旅路を最初から守ってくれたのは、
やはりそんな手探りの音のやりとりだったのだ。
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