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記憶の中の詩

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2006-07-11 [ Tue ]
ほんのひと言でも独り言を口走ると
祖父は孫娘を厳しく叱った。
正座しておじぎがきちんとできないと
敷居ぎわの畳から奥へ入ることを許されなかった。
箸の持ち方が少しでもよくないと
食べているまっさい中でも持ち直させられた。

暑い日、雨の日のヒバの香りが
小さな子供はひどく苦手だった。
枝折り戸を開けると、柿の樹の根もとに
ぎっしりと金魚鉢。
魚と水草の湿った匂い。
酸素ポンプのモータと水泡の音。

台所に呼ばれると、床にバケツが並んでいる。
小さな手が張り切って運ぼうとするのを制して、
大きな手が水に錠剤を放りこむ。
「それは何?」
「はいぽだよ。これを入れないと
金魚は中で生きていけないんだ」
地下水を汲みあげたままのその水は
都心に近いと思えないほど、公団育ちの子供には
澄んで甘かったのだけれど。

その家も金魚も、柿の樹もワーシャも今はない。
ただアンティークのような形をした鍵だけが
1本の鍵だけが
昔面白がっていくつもいくつも作ってくれた迷子札のように
彼方には還る処のあることを教えてくれる。
マルファとワシリィの手の中に。
いちばん愛された孫は自分だと
それだけはつゆ疑ったことはない。
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